1.無我夢中で…
離婚を機に、山梨へ引っ越しました。今から9年前のことです。知人の移住先でした。周りは桃と葡萄畑、まだ小さかった子どもたちがのびやかに成長できることだけを願って。
知人は、畑込みの土地を持っており、その隅っこに小さな我が家を建てさせてもらいました。保育園を探して、昼は看護師として働きました。間借り先ではキャンプみたいだねと楽しさを演出しました。火事場の馬鹿力とはこのことです。本当は不安でいっぱいでした。
2.小さくとも…
小さくとも新築。木をたくさん使ってほしいと大工さんにお願いしたら、桜の木でフローリングを作ってくれました。住み始めたのは2月、馴染むまではとても寒かったけれど、すべてがリスタート、その自由に喜びで震えたこと、忘れられません。
幼かった子どもたちは燥いで、「家に名前をつけよう!」と。何という名にしたか忘れてしまいましたが…。その子たちは、この家で育ち、中学生と高校生になりました。
3.いつかは…
子どもたちが巣立つ日も見えてきました。その時は背中をポンと押して…いや、追い出してやらねば。二階は要らなくなります。一人にぴったりの、小さな平屋に建て替えたいと、また小さくも大きな夢が胸に灯ります。当時は余裕がなく、作るときには気を配れなかったこと、例えば掃除のしやすさ、電気コンセントの位置、必要最低限の照明なども配慮して。終の棲家を。もう一度、嫁に行く可能性もなくはないのだが、ひとりの時間もまた甘美です。
その日まで頑張って働き、楽しんで生きようと思う五月、葡萄の葉がしげる緑の中から。